ヒッチコック(2012年 アメリカ)
題名通り、アルフレッド・ヒッチコック監督が主人公の自伝的作品。彼の最高傑作『サイコ』(1960年)の舞台裏が描かれているので、まず『サイコ』を見ておくこと。ちなみにホラー映画ではないので、誰も死にません。
『北北西に進路を取れ』が好評で、パラマウント社は同じようなサスペンスを望むが、ヒッチコックは次回作をエド・ゲイン事件をヒントに書かれたロバート・ブロックの『サイコ』に決める。原作をスタッフに買い占めさせることからはじまり、撮影中も内容を一切口外してはならないと緘口令を敷くなど、徹底した秘密主義を貫く。
まず製作時点でパラマウント社は難色を示し、結果、ヒッチコックは自宅を抵当に入れ、自費で撮ることを提案し、どうにか契約をする。撮影ははじまるが、トイレの流水シーンやシャワーシーンを映倫にカットするよう言われたり、パラマウント側には撮影現場を見せろと執拗に迫られたり…妻アルマに禁止されているにもかかわらず、酒の量は増えていく。アルマが脚本家ウィットフィールドと浮気しているのではないか…妻への嫉妬やスターに育て上げた女優たちからの仕打ち…女性への不信感と憎しみをつのらせていくヒッチコック。共鳴するかのように時折、エド・ゲインの幻影が現れる……
一般的な評価はまあまあ(★3.5とか70%)って感じですが、個人的には面白かった。『サイコ』が完成するまでに、あんなにも困難があったとは。完成しても「劇場公開はせず、『ヒッチコック劇場』(TV)の二部構成で放送しよう」とまで言われ、ヒッチコックも駄作扱いを覚悟したほど。
が、そこであきらめなかった。編集(アルマがバーナードの楽曲を推さなければ、最初シャワーシーンは無音だった!)や宣伝方法(途中入場禁止・ストーリー口外禁止)を工夫することによって、『サイコ』は見事にヒットするんですね~。ここら辺のたたみかけるような展開はゾクゾクします。
最初アンソニー・ホプキンスのヒッチコックに違和感があったんですけど、さすがの演技力で気づけばヒッチコックに見えてました(笑。アルマ役のヘレン・ミレンもオスカー女優。彼女をはじめ、配役は非常に豪華で手堅い。
ヒッチコックが主演女優に執着するのは有名な話なんですが、妻アルマに対する思いとはまた別なんですよ。裏切られたと思って辛く当たっていたヴェラ・マイルズ(マリオンの妹ライラ役)に「あなたが私たちに見ているのは理想なの(実際は違う)」と指摘され、心の底で半分わかってはいる。その現実の女性として、またずっと自分を支えてくれるパートナーとして、アルマがいるんです。だから彼女に裏切られたと知った時、怒り狂うヒッチコックを、あのシャワーシーンの演出に持ってきたのがうまい! ジャネット・リー(マリオン役)の恐怖におののく表情を撮ろうと、ヒッチコック自らナイフを振るう場面。ナイフを向ける相手が映倫や制作会社のおっさんたちになったり、ウィットフィールドになったり…ものすごい憎悪が伝わってくる(この場面だけレクター博士に見えた)。ジャネットも本気で震えていた。
…とまぁ、人によっては「あざといな」と感じるかもしれませんが、私は素直に面白いな~と思いました。老境に差し掛かった夫婦の関係…それが少しだけわかってきた自分がイヤでしたが(笑。