不思議の森のアリス
『地球最後の男』や『激突!』の原作者リチャード・マシスンの初期傑作短編集。本当に傑作揃いでした。内容を考えるとSFに分類されるかもしれません。が、物語はあくまでも日常からはじまり、地に足の着いた世界がふいに揺らぐ瞬間を描いているので、私には「ホラー」でした。
『不思議の森のアリス』リチャード・マシスン
全作品面白かったので、簡単に紹介します。
「男と女から生まれて」
「某月某日――今日、明るくなるとお母さんはぼくをへどがでるものと呼んだ。」の一文からはじまるデビュー作。「ぼく」は家族から忌み嫌われ、地下に閉じ込められてます。最後まで読んで理由がわかってから、思わずもう一度読み直しました。
「血の末裔」
幼い頃から変わり者の少年ジュールズはドラキュラ映画を見て以来、吸血鬼に憧れるが……最後の一行がいい。
「こおろぎ」
某ホラー小説の元ネタってもしかしてこれかなと思いました。ホテルで夫婦が出会った男はこおろぎに異常に怯えていた。彼らの「秘密」を見つけてしまったから…夫婦にはとんだとばっちりだった気がします。私だったら絶対男の話は聞かない!
「生命体」
真夏の太陽の下、車でロサンゼルスからニューヨークへ向かう新婚夫婦(かなり無謀)。人気のないガソリンスタンドで出会った男。彼は車を修理している間、自分の「動物園」を見ていったらと夫婦に言った…題名でわかるかと思いますが、夫婦とエイリアンの格闘です。ちょっとしたホラー映画を見ているようで、ハラハラします
「機械仕掛けの神」
朝、髭を剃っていてうっかり喉を傷つけてしまった主人公。しかしその傷から流れてきたのは…オイル? 妻には「血が出ている」と言われ、主人公は自分の正気を疑うが…
「濡れた藁」
数ヶ月前に妻が死んだ。下宿で隠居暮らしを満喫する主人公。しかし夜眠ると毛布から濡れた藁のにおいが…ラストかなりぞっとします
「二万フィートの悪夢」
映画『トワイライトゾーン』で映像化されてます。飛行機恐怖症の主人公が窓外に見た翼の上の怪物。誰も怪物の存在を信じてくれない。ついに主人公は…
「服は人を作る」
服装を気にするあまりおかしくなってしまった兄の話をはじめる男。酔っ払いの戯言として適当に聞いている「わたし」。ラストが秀逸!
「生存テスト」
ある大事なテストに向けて最後の特訓(?)をする父と息子。だがどうみても息子は父がそのテストに合格しないことはわかっていた…題名がネタバレですよね。原題の「The Test」だけでよかったのに。 「世にも奇妙な物語」に出てきそうな物悲しい話。
「狙われた獲物」
アメリアが恋人の誕生日プレゼントに買ってきた先住民族の呪術人形。縛めが解けてしまい、「殺し屋」が動き出した…と荒唐無稽な話なんですが、本当に怖いのは最後の数行でした。部屋の隅で母を待つアメリア…
「奇妙な子供」
いつもの仕事からの帰り道、車をどこに駐車したかわからない…そもそも車で来たのか…自分は運転免許を持っていたんだっけ?…家はどこだった?…いや、それは昔住んでいたところだろう…自分の「記憶」があやふやになっていく恐怖。そのわけが合理的に(SF的ですが)語られるラスト。個人的にこの短編集中、一番傑作だと思います。
「一杯の水」
題名通り、一杯の水を求めてさまよう主人公。たったこれだけのことで、じわじわ怖い…最後は笑ってしまいますが。
「生き残りの手本」
これもテクニックの勝利って感じの短編。うーん、うまい!
「不思議の森のアリス」
夫とピクニックに来たアリスは一人で公園を散策していて、小さな家を見つける。奇妙なことに幼い頃夢想した熊たちの家にそっくりだった…オチに納得するかしないか…って感じですね(SFだから)
「不法侵入」
半年ぶりに海外出張から戻ってきたら、妻が妊娠していた。だが妻は誓って不貞は犯していないという。主人公は妻の言葉が信じきれず、次第に妻のお腹は大きくなっていくが…奥さんがかわいそうですね。女性は奥さんの立場になって、男性は夫の立場になって読んでいくと思いますが、どちらの状況も怖い。最後は少しほっと…しないか。
奇妙な話が好きな人はぜひ読んでみてください。私もSFあまり得意じゃないんですが、非常に面白かったので、強くオススメします。