暗い日曜日(1999年 ドイツ・ハンガリー)
聴くと自殺したくなる曲…という都市伝説で有名な『暗い日曜日』。作曲された経緯をベースに作られた全くのフィクションですが、たまらなく暗い展開なのに、つい見てしまう不思議な作品。まるでこの曲のよう。ラスト全く予想外だったんで、素直に驚きました。
〈ストーリー〉舞台は1930年代のハンガリー・ブダぺスト。レストランオーナーのラズロとその恋人のイロナは、店での演奏のためにピアニスト・アンドラーシュを雇った。次第にアンドラーシュとイロナは惹かれあい、アンドラーシュは彼女のために『暗い日曜日』という曲を作曲、その歌をイロナへの誕生日プレゼントとして贈る。やがてアンドラーシュが作曲した「暗い日曜日」はラズロの力添えでレコードとして発表されたのだが、程なくしてその曲を聴きながら自殺する人々が続出し、「暗い日曜日」はいつしか「聞くと自殺する歌」として恐れられるようになっていく。そんな中、かつてラズロとイロナのレストランの常連客だったハンスがナチスの幹部として戻ってきたことにより、物語は急展開を迎えることになる。(Wikiより引用)
冒頭、 レストラン・サボーにお爺さんが妻を連れて誕生日のお祝いに来る。80歳の誕生日。お爺さんは『暗い日曜日』の演奏をリクエスト。が、ピアノの上の写真を見たとたん、倒れ、心臓麻痺で帰らぬ人に…。オーナーのサボーが言う。「あの曲のせいだ。呪われた歌だ。愛のために書かれたのに…彼女のために…60年前に」
で、舞台は1930年代に飛ぶ。まずね、写真の女性、イロナがホントにイイ女。わかってて、胸元見える服着てるね、あれは。実際、彼女目当ての男性客も多い。でもって、ラズロも不思議な男。普通、若くてカワイイ恋人がいたら、心配でしょうがないはずだけど…ところがどっこい、アンドラージュと彼女をシェアするんだよね。イロナもなぜかそれに同意。で、不思議な三角関係が続く。
そして上記にあるように『暗い日曜日』が作られる。まず、初めて演奏された日に絵描きの常連客とドイツ人青年ハンスが自殺…しますが、ハンスは河に飛び込んだところをラズロに助けられる。大胆にもハンスはイロナに結婚を申し込んだんだけど、あっさり振られたのです。それだけで自殺する…ってのも若さなんですが、ここで助けられたラズロに恩義を感じていたのか、それともイロナがあきらめきれなかったのか…数年後、レストランにやってきたハンス。が、ナチス親衛隊の服を着て、見た目だけでなく、中身も変わってしまった…と感じるラズロ。ハンスは半ば強制的にアントラージュに『暗い日曜日』を演奏させる。彼を助けようと歌ったイロナは堪えきれず、席を外すが、その時銃声が!
(以下ラストまでネタバレします)
ハンスの銃を奪って、自殺したアントラージュ。その頃には世界中でこの曲がラジオで流れ、多数の自殺者を出した(とされる)「自殺ソング」として有名だったのね。その不気味な力と、マスコミからのバッシングに堪えきれなくなっていたわけです、彼は。何か、目に見えない力が、自分にそれを書かせたのか。アントラージュは探るかのように曲に歌詞をつけたのです。これまた切ない歌詞なんだ。決して自分の手に入らない…イロナのことを思って書いたのがわかりすぎる。
アントラージュの死は、ナチスの軍事侵攻とともに、イロナとラズロに暗い影を落としていく。ラズロはユダヤ人。すがるようにハンスに国外脱出の申請を頼みますが……ハンス、ホントにヤなヤツになってしまった。そうやってすがってくるユダヤ人から金品と引き換えに脱出の手はずを整えてあげる。巻き上げた金品はうまく隠し、いよいよナチスの旗色が悪くなっていくと、姿を消した。ラズロは騙され、イロナが(文字通り)身を捧げたにもかかわらず、収容所へ送られてしまうのです…。アントラージュの墓の前で「(ラズロ)には墓すらないのよ」と泣くイロナ。でもこれからレストランを開けるわ…と立ち上がった彼女のお腹が大きいの。ラズロの子供がいたのね。だから死ななかったんだ。
そんな、彼らにとってはひで~ヤツであるハンスなんだけど、1000人ほどのユダヤ人を実際国外脱出させていたということで、英雄扱いされているよう。で、冒頭の60年後に戻ると、死んだ爺さんは…ハンスだった! 運ばれていく遺体を見つめてたオーナーのサボー氏、誰もいないレストランで、シャンパンのフタを開ける。厨房で、洗い物をしているおばあさん。傍らには見覚えのある小瓶が!アントラージュが以前、自殺しようとして持ってたのをラズロが預かり、そして最終的にイロナの手に渡った薬物(中身はよくわかりません)。そう、ハンスの料理にそれを入れたんですね、きっと。「おめでとう、母さん」とサボー氏とおばあさんがシャンパン片手に抱き合うラスト(50年ぶりに訪れたハンスにようやく復讐できたということ)。
曲じたいは…物悲しいけどステキな曲です。自殺したくは…ならないです。おそらく当時の世相(第二次大戦とか)が多分に影響してて、自殺を招く曲と結び付けられてしまったのでしょう。が、実際、作曲者レジェーが自殺したのは事実。