恐怖(1961年 イギリス)
父親と10年ぶりに会うためフランスへ来た少女。ところが父親は出張で不在。継母は優しいが、その晩、少女は屋敷の離れで父親の遺体を見てしまう……ニューロティック・スリラーと見せかけて? モノクロですが、今見てもかなり面白いです。
※日本版はなさそう(またか)
ペネロピ(ペニー)は父親と暮らすため、ニースへやってきた。空港に迎えに来たのは運転手(雑用係?)のボブ。ペニーは幼い頃の落馬事故で脚が動かず、車椅子が欠かせない。父の屋敷に着いてみれば、彼は出張で数日不在。一度も会ったことの無い継母ジェーンがいます。彼女はペニーを気遣うが、ボブは彼女と父の主治医ジェラードとの不審な仲を匂わすことを言う。
その晩、ペニーは屋敷の離れに明かりがついているのを見かけ、そこへ入っていく。すると椅子に腰掛けた物言わぬ父の姿が! 思わずプールに落ちてしまったペニーはボブに助けられるが、意識を取り戻すとジェラード医師をはじめ、皆ペニーの話を信じない。
その後も父親しか弾けないはずのピアノの音色を耳にしたり、自分の部屋でまたも父の遺体を見てしまう。ペニーが見ているのは幻覚なのか? 唯一の味方、ボブとともに父を探すが……
(以下ネタバレ)
この映画の布石として10年というタイムラグがあります。ペニーのことを唯一わかる味方であるはずの父親がいない。怪異を訴えるペニーを神経症のように扱う主治医や継母。そしてペニー自身、脚が不自由なのもあり、神経が過敏な感じだ。
ボブが屋敷のプールを捜索すると、水底に父親の遺体を発見。ボブとペニーは車で警察に向かいます。道中、崖際にたたずむジェーンを見つけたボブは、車を止め、外へ出てしまう。ジェーンとボブが話しているうちに車が勝手に崖へ向かって動き出す。恐怖にかられたペニーが前部に身を乗り出すと、助手席に父親の遺体があった。驚く間もなく、車は海へ落ちていく……(以下反転によるネタバレ。見たい人のために)
実はボブとジェーンが財産目的で共謀していたのだった。ジェーンは夫が車で海に落ちたのを事故死だと思っていたが、それもボブが細工したもの。アップルビー(父親)が死ぬと全ての遺産がペニーへ。ジェーンには利子分だけがもらえる遺言だったが、仮にペニーが遺産を受けとるのに不適格(精神的に問題がある)か、亡くなれば、ジェーンが全てを受けとることになるわけです。ジェーンはどうやらペニーを殺すつもりはなく、精神的に追いつめてやろうとしていただけだが、ボブが一人先走った結果らしい。
警察から遺体の確認をしてもらいたいと海へ呼ばれるボブ。ジェーンは弁護士が来たので、屋敷で相続の手続きをすることに。ところが弁護士は娘(ペネロピ)は3週間前、スイスで死んだと驚くべきことを告げる。友人フレンシャムと休暇中、入水自殺したのだ。混乱するジェーン。庭先の崖の上に車椅子の少女がたたずむ。ジェーンが近づいていくと、振り返ったのはあのペニーだった。
映画冒頭、湖から遺体が引き上げられるのですが……それがペニーだったのです。今までペニーと名乗っていた女性は、友人フレンシャム。母親の死に耐えられず精神を病んでいくペニーを3年見守ってきたが、見かねた彼女は父親に手紙を書く。ところが父親からも「妙なことがあるから呼べない」と返事が。彼もジェーンに不信感を抱いていたようだ。そんな中、ペニーが自殺。ところが2週間後、父親から「帰ってきなさい」と便りが届く。フレンシャムはペニーが亡くなってすぐ、父親に電話でその死を知らせたはずなのに。
不審に思ったフレンシャムはペニーに成りすまし、父親と昵懇だったジェラード医師の協力のもと、一芝居打ったというわけ。フレンシャムはペニーからすでに多額の遺産を受けとっており、親友の仇討ちが目的だったようだ。フレンシャムは車椅子から立ち上がり庭へ降りて行く。
一方、車から発見された遺体が父親のみ、弁護士から車椅子の女性が屋敷にいることを知らされ、急いで戻るボブ。崖上に車椅子の女性を見つけ、思わず蹴り落とすと、驚愕の表情を浮かべ、海へ落ちていくジェーン。力尽きた彼女が車椅子に座っていたのを勘違いしてたボブが突き落としたのだ。ボブは警察に現行犯逮捕され、海に浮かぶジェーンの遺体を見下ろしていたフレンシャムにジェラードが声をかける「ここにはもう用はない。行こう」
今はそんなにめずらしくないかもしれませんが、二転三転するラストは本当に鮮やかです。しかもすっきりする。ネタバレぎりですが、キャスティングの勝利ですね。